田弘です。
前回のリッツ・カールトンホテルについての経営戦略の研究の続きをしていきたいと思います。

では・・・。

第3章 リッツ・カールトンホテル
1 リッツ・カールトンホテルの経営戦略

2章でみてきた3つの経営戦略を元に、リッツ・カールトンホテルの経営戦略とホスピタリティに照らし合わせ、それを検討していく。

①差別化
①-1現場スタッフに約20万円の決裁権が与えられている。
大事なことは、スタッフが提供するサービスの選択肢を狭めないこと、企業とスタッフとの信頼関係を確認し合う仕組みであること、さらには、この約20万円はコストではなく投資であるとする考え方である。ザ・リッツ・カールトン大阪で、ある東京の大学教授が講演旅行で来阪されホテルに宿泊した。チェックアウトを済ませ、新幹線に乗ってから気が付いたのだが、ホテルに眼鏡とその日の午後に東京の講演会で使う資料を忘れてしまったのだ。教授は慌てて新幹線の中からザ・リッツ・カールトン大阪に電話をした。「眼鏡と資料を忘れてしまった。今日の夕方に東京で使う資料なんだ!」 電話を受けたスタッフは何と答えたか。事もなげに、こう言ったそうだ。「は
い、かしこまりました。それでは今
すぐに新幹線で追いかけさせていただきます。東京駅でお渡しすることはできますでしょうか」かくて、眼鏡と資料は大阪から飛んできたスタッフによって、東京駅で教授の手に渡ったのだ。その後、その教授自身はリッツ・カールトンのヘビーユーザーになったという。
クオリティを上げるとコストが上がると考える人が多いが、クオリティを上げれば上げるほど、下がるコストがある。例えばリッツ・カールトンは宣伝広告費をほとんど使っていない。各界の著名人の方々がリッツ・カールトンの「うわさ話」をさまざまな機会にしてくれるからである。もし、彼らの口コミの宣伝力をお金で買おうと思ったら、億単位の費用がかかるだろう。リッツ・カールトンはなにも、忘れ物をしたすべてのお客さまを走って追いかけるわけではない。宅配便という選択肢もあるだろうし、資料ならファックスすれば済むかもしれない。さまざまな選択肢のなかの一つが新幹線で追いかけるという行為であり、それがお客さまにとって最良の手段なのであれば、即座に採用できるシステムと環
境があるだけである。だが、現場のコスト意識は非常に高い。教育や研修の過程でかなり時間を割いてトレーニングする。多くの業界関係者やリッツ・カールトンのファンによって「20万円」という数字だけが独り歩きしてしまった感がある。しかし、それはスタッフたちのサービス手段を狭めないためのセーフティネットであり、やむを得ずそれが発動するときというのは、「コスト」ではなく「投資」として投入されるということなのだ。

①-2満足を超える感動で差別化。
リッツ・カールトンホテルの「方針」や、「従業員の心得」、というものがある。そこには、お客様を満足させて当たり前、それ以上のことをする。と書かれている。 有名なエピソードがある。米国・カリ
フォルニア州の海辺にあるザ・リッツ・カールトンで、従業員が1人の若い男性から椅子を貸してほしいと懇願された。理由を聞くと、海辺で彼女にプロポーズをするためとのこと。そこで従業員は、自らの判断で急ぎタキシードに着替えるとともに、浜辺には椅子とテーブルを準備。テーブルの上には一輪の花と冷えた上等のシャンパンを用意し、テーブルの傍にはハンカチを敷いた。プロポーズの際に跪けるようにするためだ。 このような様相外のサービスには、客は感動を覚える。そういった積み重ね
が、差別化につながるのである。

①-3 NOといわないサービス
顧客の無理にもNOとは言わないというのもある。顧客サービスにはスタッフのホスピタリティを欠かすことができない。それは次の8つから成るという。(1)感謝の心、(2)誠実な心、(3)思いやりの心、(4)謙虚な心、(5)愛の心、(6)忠誠の心、(7)使命感の心、(8)奉仕の心。である。これらを基にしたリッツ・カールトンならではのサービスポリシーが、「NOと言わないサービス」である。要求に対して、機械的に対応することは誰でもできるだろう。しかし、それでは満足なサービスとは決して言えない。たとえ無理な頼みごとでも、単にNOというのではなく、代案を考えることが求められるのだ。また、他のホテルとは違い、職員に約20万円の決裁権が与えられており、これにより他のホテルではで
きないようなサービスも可能になる。

①-4空間の心地よさ
ザ・リッツ・カールトン大阪のインテリアコンセプトは、18世紀英国の伝統的なジョージアンスタイルで、18世紀の貴族の邸宅を彷彿とさせる、絵画や美術品の数々が飾られている「もうひとつのわが家」である。リッツ・カールトン大阪が18、19世紀のアートにこだわるのは、いつの時代にも通じる、時を越えても永続的に息づく、人生の豊かさや質の高さを感じるからである。その質の高さは、リッツ・カールトンが提供するサービス哲学に通じている。つまり、従業員だけではなく、アートひとつをとっても、お客様を豊かな気持ちにさせ、心に残る体験をお届けできるものでなくてはならない。ロビーに一歩入ると、伝統的で豪華なペルシャ絨毯のエレガンス、チェコ産のクリスタルシャンデリア、イタリア
から取り寄せた大理石が敷き詰められた床を堪能することができる。レセプションエリアでは、陶磁器を並べた本棚に囲まれた、イタリア産大理石でできた暖炉が「わが家」の温かい雰囲気を作り出している。ホテル館内いたるところにほどこされたミルワークは、特殊なアンティーク塗装を必要としたため、全て米国より輸入。壁には、マホガニー、ノッティパインにアンティーク仕上げをかけたものや桜の木を、パブリックスペースの女性用化粧室の床には、大変珍しいノルウェー産のピンク大理石が、それぞれ使用されている。

②コストのリーダーシップと集中
コストのリーダーシップと集中の経営戦略においては、リッツ・カールトンホテルは該当しない。なぜなら、コストのリーダーシップは低価格で、最優位に立つという基本目的にそった一連の実務政策を実行することで、顧客の要望に答えることを最優先としている高級ホテル業務とは、正反対である。
また、集中の経営戦略とは、特定の買い手グループや、製品の種類、特定の地域市場をターゲットとしたものであるが、リッツ・カールトンは、「全てのお客様」をターゲットにしているため、この戦略も適合しない。

このように、リッツ・カールトンホテルは、特に「差別化」に重きをおいた戦略がとられていることがわかる。

2 リッツ・カールトンホテルのホスピタリティを生み出す仕組み
顧客満足に着目したW・アール・サッサーやフレデリック・F・ライクヘルドによる提示したコンセプトのエッセンスの一部を簡単に紹介すると、以下のようになる。「優れたサービス企業では、顧客の期待を上回るサービスが高い顧客満足を生み出し、リピートや口コミ、高価格の実現につながっている」、「顧客満足は、接点となる『人』の要素に大きく左右される」、「優れたサービス企業では、顧客満足(CS)と従業員満足(ES)が複合して好循環を作っている」。書籍ほか、様々なところで分析されているリッツ・カールトンのサービスは、ある意味、当たり前のことではあるが、やはり、こうしたセオリーが、しっかりと当てはまっている。同社の主だった施策や方針を挙げてみよう。まさに教科書通りの
マネジメントがなされているのが見て取れる。

①顧客のニーズや満足度を細かく分析し、システム、チームワークで対応できるようにする。一方で、フロントラインの従業員一人ひとりが常に顧客の期待を超えるサービスを提供できるように、モチベーション、スキルを高めていく。

②そのカギとなっているのが、従業員全員が持つ「ゴールドスタンダード」。「クレド」を軸に、「モットー」「サービスの3ステップ」「サービス・バリューズ」「第6のダイヤモンド」「従業員への約束」から成り、従業員はこれらが記された冊子を常に携帯、意識している。ルールに明記されていないことでも、従業員はこのゴールドスタンダードに描き出された同社共有の価値観に従い、自らの判断で行動する。

③ゴールドスタンダード共有のカギは、教育とたゆまぬ議論、上司のコーチング。新入社員(中途採用を含む)は、初年度に300時間のトレーニングを受けなくてはならないが、その中核を成しているのが上記の価値観。また、毎年クレドサーベイと呼ぶ調査を行うことで、こうした価値観がどこまで浸透しているかをモニタリングしている。

以上のような「仕組み」の元、ホスピタリティが発揮できるようになっている。

次回は11月、投稿予定です。